商品は二の次!名作映画が証明する「買う心理」の正体
「このペンを俺に売ってみろ(Sell me this pen)」
主人公の天才相場師ジョーダンが、1本の何の変哲もない安いボールペンを突き出し、「俺に売ってみろ」と仲間に課します。売れない営業マンは「このペンは最高級のインクで」「デザインが洗練されていて持ちやすい」と、ペンのクオリティ(商品の良さ)を必死にアピールしますが、ジョーダンは全く興味を示しません。これでは信用のコップはピクリとも動かないのです。
しかし、天才ブローカーの仲間は不敵に笑ってペンを受け取ると、ジョーダンに向かってこう言いました。「なぁ、そこに転がっているナプキンに君の名前を書いてくれよ」。ジョーダンが周囲を見回し、「おいおい、ペンがないから書けないよ」と答えたその瞬間、男はニヤリと笑ってペンを突き戻しました。「ほら、ペンが必要になっただろ?(売りつける)」
優秀な売り手は、商品のスペックを語りません。相手に「今すぐそれが必要だ!」という強烈な気づきと納得感をその場で与え、「この人の言うことなら間違いない」という信用のコップを一瞬で溢れさせたのです。人は、良い商品だから買うのではなく、「良さそう」「信用できそう」と思うから財布を開くのです。
『コンフィデンスマンJP』に学ぶ、コップのサイズと劇場型戦略
人間は誰もが心の中に、信用が溜まる「コップ」を持っています。重要なのは、相手によってこのコップのサイズが全く違うということです。
少しのアクションですぐコップが溢れるため、人を信じやすい反面、騙されやすい傾向があります。
関わる人間が多く、過去の経験から警戒心が強いため、簡単には信用が溜まりません。
大人気ドラマ『コンフィデンスマンJP』で、主人公のダー子たちが狙うのは、何十億もの資産を持つ冷酷な大富豪たちです。彼らは百戦錬磨で疑い深く、他人を絶対に信用しません。つまり「信用のコップがとてつもなく巨大」な状態です。普通の詐欺師が「儲かる投資話があります」と小手先のアピールをしても、彼らのコップは1ミリも満たされません。
そこでダー子たちは、気が遠くなるような時間とコストをかけます。何百人ものエキストラを雇い、「架空の格安航空会社」や「偽の政府プロジェクト」を街の中に丸ごと建設。ターゲットの周囲の有力者を次々と偽者に入れ替え、世界観そのものを偽造します。ターゲットが「自分の目で見て、周囲の信頼できるエリートたちも絶賛しているから間違いない」と確信するまで、完璧な『劇場』でお膳立てを続けるのです。
高額な商品や、相手が企業の場合も全く同じです。関わる人数が多くコップが巨大だからこそ、時間をかけて仲間(チーム)と丁寧に信頼関係の仕組み(劇場)を作り上げ、外堀を埋めていかなければコップは溢れません。ダー子たちが最後に大金を動かせるのは、巨大なコップが溢れるまで徹底的に信用を積み上げたからなのです。
フォロワー数は関係ない!一撃で溢れさせる「コストコ試食」の魔法
世の中のビジネス本には、見た目を良くする、相槌を打つ、清潔感を出す、傾聴する…といった、コップに信用を「コツコツ溜める」方法が溢れています。しかし、一撃でコップを満たす最強のショートカットが存在します。
大型倉庫型スーパーのコストコには、私たちが普段日本のスーパーで見かけないような、海外の無名メーカーの食品が巨大なパッケージで大量に並んでいます。「口に合わなかったら嫌だな」「量が多くて失敗したくない」と、お客さんの心のコップは警戒心で空っぽの状態。普通なら誰も怖くて買おうとは思いません。
しかし、通路の角からお肉の焼ける香ばしくていい匂いが漂ってきます。店員さんが笑顔で「焼き立てですよ!」と、一口サイズに切ったアツアツのウインナーを差し出します。それを受け取ってパクリと口に含んだ瞬間、「えっ!ジューシーでめちゃくちゃ美味しい!!」という強烈な感動が走ります。これが顧客の心に起きた『小さな成功体験』です。
「美味しい」という成功体験をその場で味わった瞬間、お客さんの信用のコップは一撃でドカンと溢れます。こうなると、メーカーが無名だろうが、フォロワーがいなかろうが関係ありません。「SNSで有名なあの人が薦めるウインナー(でも食べたことはない)」よりも、「今自分の口で確かめた大成功」の方が圧倒的に信用できるからです。お客さんは満面の笑みで、その巨大なパッケージを即座にカートへと入れます。
SNSのフォロワー数という「見せかけの数字」に一喜一憂する必要はありません。まずはコミュニケーションスキルを磨き、コストコの試食のように「目の前のたった1人」に圧倒的な成功体験を与えること。
その1人が熱狂的なファンになり、レビュー(口コミ)が増え、それが第三者の目から見て「ここなら信用できそう」という巨大なブランド(市場)に育っていくのです。